構内事故を考える
~ハンドル操作と衝突部位から構内事故を考える~
顧客構内・前路上 前進時
私ども支援チームへの講習依頼は、バック事故防止講習が多いのですが、提供を受けた事故内容等を見てみますと、構内で発生するバック事故が非常に多く発生しています。
構内事故のデータは、人身等による事故が少ないことから警察データからは読み取れませんが、損保や共済組合等の出しているデータすなわち、保険支払いや損保・共済組合が出している資料から読み取ることが出来ます。
web上で検索すると、神奈川県自動車交通共済協同組合が、24.9.30日発行した「2024年度版「交通事故の実態」」の中に構内事故データが掲載されていました。
その内容を見てみますと、
▌構内事故の類型別では、シャッター等による高額賠償事故を含む工作物への衝突事故が424件
発生と最も多く、構内事故全体の61.6%を占めています。
また、2023年度の構内事故による支払共済金は、総額で2億6.909万円となり、そのうちエ作物
への衝突事故が1億8.942万円と構内事故による支払共済金の約70.4%を占めています。
また、構内事故よる支払共済金総額は、対物共済全体の41.80%にあたります。
(対物共済金全体:6億4.443万円)
▌構内事故の事故原因別では、後方に対する安全確認が不十分な後退不適当が371件と53.9%を
占めています。
では、運送会社の事故データからどのような構内事故が発生しているか見てみましょう。
下記の運送会社の構内事故を見てみますと、運送形態や使用車両によって構内事故の内容が変わってきます。
A社▶4トンが主体で、発生場所は、全事故の60%(125件)が構内事故で、多発事故は、バック事故
が66件、全バック事故の約90%が構内で発生
B社▶A社と同じく4トンが主体で、構内事故が全事故の58%(171件)を占め、多発事故はA社と同じ
くバック事故で106件発生し、バック事故全体の90%を占めています。
C社▶大型車主体で、構内事故は96件発生し、全事故の65%占めています。
また多発事故はバック事故で全バック事故の98%と多発事故となっております。
ただ、AB社と違う点は発生場所で、AB社は顧客構内・前路上であったものが、
自社(店)構内・前路上となっています。
A運送会社 顧客構内・前路上事故概要
▼構内事故は、顧客構内・前路上事故95件、
自社構内・前路上25件、他構内・前路上5件の順に
発生し、最も多い顧客構内・前路上事故は、構内事
故全体の76%を占めています。
顧客構内・前事故の95件の事故をハンドル操作別と
衝突部位別をクロス表示したものが、右の表になり
ます。
なお、ハンドル操作は、ドライバーがどちら方向に
ハンドルを切って車両のどこに衝突しているかを見
ています。
▌ハンドル操作では、左方前進(25件)、左方バック(25
件)、右方バック(15件)の順に発生しています。
▌衝突部位別では、後部右角(26件)、後部左角(25件)、
後部(11件)の順に発生
上記表のハンドル操作を図式したものが、事故内容右側の図なります。
★衝突部位=ドライバーの見落とした箇所や過失点を表示したものです。
★車の前進と後退で見ると、
前進時が44件、後退時が50件で後退時が58%約6割
を占めています。
★前進時は、直進10件、左方前進25件、右方前進9件
で、前進時が44件発生し、最も多いのが左方前進で
前進時の約57%を占めています。
★後退時は、直進バック10件、左方バック25件、右方
バック15件と後退時全体で50件発生し、多発は左方
バックで全体の50%を占めています。
◀左の表は、顧客構内・前路上等での相手方
一番多い相手方は、屋根.軒.庇等高所設置物 25件、
次に車 21件、柵フェンス 9件の順に発生し、
この三つの相手方だけで、58%を占めています。
・配達時にUターンをする際に複合施設の北側の入り口から入り、南側のゲート
がある方から出ようとした際にゲートが低く車両の箱右上と接触
(高所衝突、判断ミス、自車の高さ認識)
・お客様構内から出口に向っている際に駐車車両が有り道が狭くなっていたので
車両に注意をしていた所、右側の軒下とボディーが接触
(高所衝突、認知ミス、自車の高さ認識)
・集配が配達の為〇〇〇モールへ入るも進入口を間違えた。乗用車専用の進入口
へ入り高さ制限2.1mの標識を見落とし、ポールゲートと荷台を接触、ポール
ゲートを破損させた。(高所衝突、判断ミス、自車の高さ認識)
・荷卸が完了し次の配達先を考えて発進した所、擬音が聞こえミラーで確認する
と突起物とサイドバンパーが接触して汚水パイプの蓋が取れていた。
(認知ミス、乗車前の車両一周しての安全確認)
・左側の観音扉を閉め忘れ出発、5メートル程度進んだところで左側に設置して
いた看板に観音扉が接触し破損させた(認知ミス、乗車前の車両一周しての
安全確認)
・納品後に車両を移動した際に歩道に設置された歩行者保護用のポールに車両
フロント右側を接触させた(認知ミス、発進前の安全確認)
・荷受人様構内の荷卸場手前にて大型車両の煽りを下ろし、荷卸場へ移動する
際、大型車両の煽りが荷卸場接岸ゴムと接触し損傷した
(処置ミス、移動時周辺の安全確認と車幅感覚)
・配達後、構内を出る為出庫ゲートを通過する際、警備員の停止の合図を通過の
合図と見間違えゲートのポールに接触、破損させてしまった
(出庫時、判断ミス、警備員の有無にかかわらず停止する癖を付ける)
・配達途中にお客様構内で観音扉が開けない場所において、車両を道路の左側に
寄せ観音扉を開き車輛を前進させたところ街路樹の枝に観音扉を接触させた
(認知ミス、左右ミラーでの後方確認)
・歩道のポールの間に停車して配達を終え、発進させたがポールがあることを
配達中に忘れてしまい前進し衝突した。
(出発時、認知ミス、アンダーミラーの確認)
キャビンの大きさによっても死角距離は変化します。
▼下の検証結果参照
▼上記、直進時の事故は、納品後が7件(70%)となっていることから、出発前自車の周回確認と高所障害物の再
確認が必要です。(周回確認する場合は、下だけでなく上の確認も忘れずに!)
また、確実な安全確認は停止しての安全確認が一番です。
それともう一つ「車は急に止められない」ということです。動いている車を停めるためには、必ず停止距離が存
在します。
停止距離は、【空走距離+制動距離=停止距離】なので、時速5kmであっても1m前後の停止距離が発生します。
すなわち、人は【認知】【判断】【操作】=時間の存在=【停止距離】となるのです。
車を運転する際は、「死角部分を自分の目で確認する安全確認」と「車には停止距離が存在する」意識をもった
行動が必要です。
▼下記のボタンは、支援チームの動画等です。参考にしてください。
・納品先にて荷降ろししようと車両を軒先へ前進にて寄せた時、左方に寄せ過ぎ
たため当方車両左上部を納品先倉庫軒先へ接触させ破損させた(高所衝突、
認知ミス)
・納品後、車両を発進させる際にハンドル操作を誤り荷台の右後部の上の部分を
足場の突起部分に接触した(判断ミス、尻振り、高所衝突)
・納品先駐車場にトラックを駐車する為、歩道に進入。歩行者に気をとられて地
上より2.8mの高さの歩行者用信号機にトラックボディ左側部分を接触させた(認知ミス、内輪差、高所衝突)
・配達先の敷地内に、旧国道から左折にて進入する際に、建物上部にある庇及び雨
樋に当該車両の荷台前上部左角を接触させ破損させ(認知ミス、内輪差、高所
障害物)
・配達先の前にある民家の軒に車両左側を引っ掛け、軒、車両共破損させた。切り
替えし時、前進した際に、左側面と、左側にあった民家の軒と接触
(認知ミス、内輪差、高所障害物)
・客先倉庫構内で左折する際に、建物への接触防止用のコンクリート製の柵に、左
アンダーガードを接触させ、柵を破損させた(内輪差、判断ミス)
・集配ドライバーが顧客構内のプラットホームへ前方から進入しようとしてオーバ
ーハング状態となり後方に駐車していた4t車へ接触した(大型車、尻振り、
判断ミス)
・物流センターホームより離岸して前進して左折をした時、支柱の存在を忘れてし
まい左ボディが接触し、支柱をガードする黄色いポールを損傷させた
(認知ミス、内輪差)
・配達途中、配達先近くの理髪店敷地内に駐車し、配達先にて荷物を降ろし、観
音扉の閉め忘れに気ずかず、ハンドルを左にきり、出発した際、右側観音扉が開
き理髪店看板に接触(処置ミス、観音扉閉め忘れ)
・お客様構内にて、次の積み込み場所へ移動する為車両を前進した所、左側に乗用
車がいる事に気が付かず、当方車両の左後方のサイドバンパーと相手車両の右
前方のバンパーと接触(認知ミス、出発前の周辺確認、内輪差)
・配達納品時に配達先敷地内にて方向転換で左にハンドルを切った際、右後方に
止まっている、車両と接触した(判断ミス、ハンドルを切る際右後方確認、
尻振り)
・納品後左折する際、オーバーハングにより、車両右後方部を住居フェンスに接触
させフェンスおよび基礎ブロックを破損させた
(判断ミス、ハンドルを切る際右後方確認、尻振り)
・配達先のプラットホームより離岸し左方向へ進行する際に、当方車両左に駐車中
の軽貨物のリヤドアが開いているのを見落とし、当方ボディー左側面と軽貨物の
リアドアを接触させた(認知ミス、見落とし、内輪差)
・納品を終え、次の配達へ向かうため荷主構内より退出する際、右後荷台をオー
バーハングにてアルミ製門扉に接触、破損させた。(認知ミス、右後方不確認、
尻振り)
・顧客先の駐車場でUターンしようとして前進しながら左にハンドルを切った時に
右側に駐車していた車両に右側最後尾で相手車両にオーバーハングで接触
(認知ミス、右後方不確認、尻振り)
・納品先駐車場から幹線道路へ左方向に出る際、駐車中の軽自動車にオーバーハ
ングにより接触(認知ミス、右後方不確認、尻振り)
・客先構内より道路へ出る際に、出入口壁沿いに花壇があることを見落として左折
した為、高さ30㎝花壇の角部分を左後輪で接触させた。
(認知ミス、巻込み確認、内輪差)
・配達途中配達先構内へ入ろうと左折したところ、左に停車していた車輌に接触
させた(判断ミス、巻込み確認、内輪差)
▼左方前進時多発衝突相手方と部位図
❶車 7件
❶高所障害物 7件
上記衝突物で全体の56%を占めている。
左折時、左側の衝突部位は、前部左角1件、左側面前3件となっています。これらは左折時障害物を事前に見ていなかったことが窺われます。
また、左側面6件、左側面後1件、後部左角6件となっていることは、継続して巻込みの安全確認ができていないことが窺われます。
左方前進時衝突部位図(再掲載)
左方前進時
▌到着後と納品後でみると、到着後は13件、納品後11件、作業中1件で、到着後と納品後は、内容から焦り等は
感じなく、ほぼ同じ状態と感じます。
▌左方前進時の左右衝突部位を見ると左側が17件で全体の約70%を占めています。
これは、左折巻込みによるもので、ドライバーが左にハンドルを切って左方前進した際、障害物を認識していた
か? どれだけ巻き込むか? 等を判断しなくてはなりません。
一番は、障害物と認識できたか? ということです。見て【障害物】と認識しなければ、巻込みするか?しないか?
の判断は二の次になります。
自分が見たい所だけ見るのではなく、車を左前方に進める際【障害物か否かの判断】が一番で、次に【どの段階
でハンドルを切れば良いか】の判断が必要になります。
▌次に、右側の衝突部位ですが、右側の衝突部は10件発生し、そのうち後部右角が6件(60%)発生しています。
これば、リアーオバーハング(尻振り)によるもので、ドライバーはどれだけ右後部角がはみ出るかを知ってお
く必要があります。
▼衝突物
左方前進時25件中、多発衝突物は、❶車(7件)と❶高所障害物(7件)で、両者で全体の約60%を占めている。
車と高所障害物とも【障害物か否かの判断】が一番で【どの段階でハンドルを切れば良いか】の判断が必要にな
るかを教える必要があります。
▌下記に4トン車と2トン車の「前部はみ出し距離」「左後輪巻込み距離」「後部右角はみ出し距離」の検証結果を
掲載しておりますので参考にしてください。
4t車が左折する場合の安全確認の順番
◀右の図は、停止してハンドルを左に一杯切った状態
での進行を検証)
〇左折時、後部右角が、最大はみ出る状態は、
リアーオバーハングの距離2.5m進んだ時、はみ出し
距離は最大値50cmになる。
▶ このときの、左後輪タイヤの巻込みは、35cm
との結果から
左折して出る場合、まず確認する場所は①の後部右角のはみ出しを確認してから、②の左後輪の巻込みを見てください。
▶左後輪タイヤの最大巻込み距離は、左前輪が直角に
なったときが最大値です。(検証では、1.2m巻込み)
▶右前角の最大値も前輪が直角になったとき③です。
(検証では、右前角が6.2m 進んだ時1.9mはみ出し)
★これら検証は、車種や車のハンドルの切れ角によっても変化します。
▌ドライバーに日頃運転する車は、どれぐらい尻振りするか? どれぐらい巻き込むか? また、どれ
ぐらいはみ出るかを教え、また、ポイント、ポイントで必ず停止して確認することを指導してください。発生内容を確認していますと、ほとんどが停止しての安全確認が出来ていません。
事故の発生を抑えるためには、停止しての安全確認が一番です。
▼下ボタンに4種類の検証動画を掲載していますので参考にしてください。
・配達先納品のため、道路右側に停車し荷卸し作業中、後方から乗用車が来た。
離合できないため車両を前方に動かし右側に寄った際、隣接の軒先の瓦に接触
した(作業中、認知ミス、オバーハング、高所衝突)
・配達先内にて、前方左右に作業車輌が停車している場所をすり抜ける際、オーバ
ーハングで左側面上部にあったダクトに車輌の左後方上部を接触させた。
(判断ミス、尻振り、高所衝突)
・配達先構内にて車両を右側に寄せる際、ポール(鉄柱)に接触し車両右側ウィ
ンカー破損およびバンパー変形させる。(認知ミス、右折巻込み)
・集荷を完了させた後、送状の出力待ちのため、車両を一旦構内より出し待機し
ようと方向転換している際、電柱の存在を忘れ接触、電柱の足掛けボルトが、
右観音扉に引っかかった(判断ミス、尻振り、電柱)
・配達先構内にてUターンする際、狭いスペースでUターンしようとしたため、
後退後右へハンドルを切り前進する際に構内に駐車中の乗用車へ当方左後ろを
接触(判断ミス、尻振り、車)
・配達完了後、敷地内から退出する際に、右側面の確認不足により、当該車両の
右側の煽り部分と右サイドバンパーが駐車場出入り口のポール及び敷地外の
柵に接触(認知ミス、右折巻込み、ポール・柵)
・配達先へ入場する際、他社車両が配達先構内入り口付近にて荷卸中かつ、当方
の後に別の乗用車が着いた為、構内に車両を退避させようとして狭路を右折進
入した際、オーバーハングで個人宅の塀に接触した(判断ミス、尻振り、塀)
・右折しながら道路に出はじめ、右側駐車場にトラックと乗用車が止めてあった
ので、少し大きく回ろうとしてハンドルを切ったとき、左側マンションの角に
バックミラーが接触(判断ミス、オバーハング、建物)
・荷降ろし場に後退進入する為、向いの駐車場に前進進入したところ、オーバー
ハングにより左側に駐車していた乗用車の右側サイドミラーに車輌左後部を
接触させた。(判断ミス、尻振り、車)
右方前進時の衝突部位
左側が約67%占める
左側 6件
▼多発衝突部位
❶後部左角5件
❷前部右角1件
右側3件
▼多発衝突部位
❶前部右角1件
❶右側面前1件
❶右側面 1件
▌右方前進時の衝突物は、❶車 2件、❶軒・庇等高所障害物 2件、❶門扉・家屋等 2件
で67%を占める。
▌左後部角の衝突内容は、❶車2件、壁・塀1件、屋根等高所障害物1件、門扉・家屋等1件の
5件となっています。
右方前進時
・前進行動(直進10件、左方25件、右方9件)は44件発生し、右方前進は9件と前進行動のうち20%と最も少ない
発生となっています。
・到着後と納品後でみると、到着後は5件、納品後3件、作業中1件となっており、到着後の移動に際してどこに行
くか?どのルートを通るか?等の判断と、障害物の確認ができていない気がします。
最初からどこに停めるかが分かるのであれば、停止して周りを見渡すことが必要と思います。
・納品後は、「右折時、左後部角のはみ出しと高所障害物 支援チーム動画」にもありますように、時間の経過と
ともに障害物の認識を忘れたり、新たな障害物が現れたりしますので、気持ちを切りかえて自車の周りと上の
障害物の確認をして行動する癖付けをしたらどうでしょうか?
・また、右方前進時、左後部角の衝突が多いことから下記オバーハング・内輪差検証時に自分の車は、左後部角が
どれだけはみ出るか?検証させて理解させてください。
▌車両特性の検証実施の薦め
右折も左折も同じですので、自社内で検証すること
をお勧めします。
注意点
停止して、ハンドルを右一杯切って進行させてくだ
さい。それが旋回の最小半径になります。
動きながら切ると、半径が大きくなります。
下のボタンは、普通乗用車の場合ですが、参考にし
てください。
~ミラーやカメラが設置されてあっても死角は、あるのです。
ミラーやカメラを設置しても死角部分は存在し、それを補うためには、ドライバー自身の目で見るしかないことを忘れないでください。また、確実な安全確認は停止しての安全確認が一番です。
動画「バック駐車応用編」の指導方法は、①基本指導 ②高所障害物 ③車両特性(リアーオバーハング、内輪差等)と高所障害物を設置した駐車場からの出と入りを組み合わせた指導講習で、原点回帰講習内容の総括になります。
上記の動画は、 シンク出版発刊の「バック事故防止実技講習ノート」を購入された管理者・指導者の方が講習を実施する際の支援動画になります。
バック事故や構内事故もそうですが、自車寸法の把握、車両特性を把握して、不安に感じたら止まることを優先してください。
構内での事故防止は、自車を停車させて、「確認してから行動する意識」で行動してください。
構内は狭い場所が多く、ホークリフトやドライバー等人の動きもありますので、譲る意識をもっての行動が事故抑止に繋がります。