構内事故を考える 5
~ハンドル操作と衝突部位から構内事故を考える~
まとめ
場所別に見た構内事故の多発場所は、顧客構内95件、自社(拠点)構内25件、他構内5件の順に発生し全構内事故の件数は125件となっています。
この構内事故125件は、全事故208件の60%も占めています。
では、構内移動時で何に気を付ければよいか?
また、ハンドル操作(前進時=直進、左方前進、右方前進)、(バック時=直進バック、左方バック、右方バック)では何に気を付けて行動すれば良いかを考えてみます。
▌「全構内でのハンドル操作別衝突部位表」を見てください。
前進とバック時でみると、前進時56件(45%)、バック時68件(55%)
となっており、全校内事故124件全体から見るとバック時が、10%程度高い発生率となっていま
す。
ハンドルを左右に切るとどうでしょう?
発生件数だけ見ると、❶左方バック34件❷左方前進32件❸直進バック17件❸右方バック17件
❺直進12件❺右方前進12件の順に発生しています。
次にハンドル操作と衝突物を見ていきます。
発生件数が一番多い「左方バック」(上の表)は、バック事故件数の50%を占め、前後行動の27%
占めています。
「左方バック」の衝突部位件数でみると、左方バックの全衝突部位の約70%は、後部右角12件と後部左角11件となっています。
【左方バック行動の指導点】⇒ 後部右角 ⇒ 後部左角
衝突物では、車への衝突13件、高所障害物7件となっており、両者で左方バック時の約60%を占めています。(参照 左方バック衝突部位と車&高所障害物件数図)
・左方バック時⇒車への
衝突が多い(約40%)
・特に後部左角7件(54%)
▌車への衝突
後方左角の衝突が多いのは、右後方と違ってドライバーから直接視認することができません。
バックモニターか?ミラーで確認しながらバックしますが、下の死角検証結果のようにミラーに
は死角距離(ミラーの視認範囲)があります。
トラックドライバーの場合、左後輪タイヤを基準にすることが多いと思いますが、下記の死角・
視認範囲検証のように後輪タイヤを基準とした視認範囲(距離)を知っておくとよいでしょう。
右ミラーの視認範囲と左ミラーの視認範囲が違っています。
その1 ミラーの鏡は凸面鏡です。
特に左側のサイドミラーの方が、右側のサイドミラーよりも広範囲に見えるように設計されて
いることが多く、これはトラックの左折時の内輪差による巻き込み事故を防ぐためで、広範囲に
見えるようにしてあります。~左右のミラーでは視認範囲が違うことを理解させてください。
その2 ミラーを介してのバックは遠近感誤差がある。
このミラーを介しての自身の車両感覚を検証したものが【ミラーを介しての車両感覚検証結果】
です。一度検証してみてください。
検証は、❶左ミラーだけで後方に設置した障害物にピッタリにつける。❷次に右ミラーだけで同
じように障害物にピッタリつける。❸最後は、右の場合は目視ができますので、目視で同じこと
を実施します。
結果はどうでしょう?(参照 「自分が運転する車の車両感覚を知ろう」)
2回、3回しても同じ結果はでません。
これは、ピッタリ上手く付ける練習ではないのです。
鏡であるミラーを介しての遠近感の難しさを理解してもらうための練習なのです。
それが理解出来たら、バック開始前に停止し降車確認するか、事前に進路先の障害物の有無を確
認する必要があります。
ミラーを介しての車両感覚検証
結果が、-〇〇となっているのは、障害物をとおり過ぎた距離ですので、衝突したことになります。
◀遠近感は難しい!ことを理解する必要があります。
無理をせず、止まって確認するか、降車確認をしてください。
▼過去に調査した内容では、バックモニターを装着すればバック事故発生率は下がり、全事故
発生率も下がります。
注: 2021年6月に『道路運送車両の保安基準』などの一部が改正され、国土交通省から後退時車両直後確認装置
(バックカメラやバックセンサー)の義務化(新型車の場合2022年5月から)されています。
▌バック事故で見ると、
バックモニター装着車のバック事故発生率は2.7%で、未装着車4.2%と比較すると、1.5ポイント低い。
▌バックモニター装着車の全事故事故発生率(7%)は、未装着車(14%)の半分の発生率となっている。
~ バックモニター(カメラ)はバック事故防止に役立つ
機器です。 ~
▌高所障害物
人はトラックをバックする際、バックさせるという一つの行動に集中する必要があり、かつ物に
当てないように、ブレーキやハンドル操作する必要があります。
すなわちバック時は、最低二つ以上の行動に対する判断が必要になります。
この確認対象が多くなるほど難しくなります。
特に、得意先等の構内では、車や施設設置物以外に軒や庇等の高所障害物への衝突がという問題
がでてきます。
先に掲載した【全構内・前路上等事故 相手方】124件のうち車への衝突が43件で、次に高所障害
物が26件(主に顧客構内で発生)と多く発生しています。
高所障害物衝突26件のうち、左方バック時に7件の高所障害物衝突があり、その発生報告書に
は、【確認を怠り】3件【見落とし、確認不足】2件と記載のあるもの5件、となっており事前確
認が出来ていないことによるものです。
また、【記載は無いが、バック前の安全確認しておれば防げるもの】2件となっています。
これら内容を読むと、事故を起こしたドライバーのほとんどが高所障害物に意識が向いていない
ように感じられます。
トラックにはほとんどの車両にバックカメラが搭載されていますが、自身が運転する車両のバッ
クカメラが映る範囲はどれだけか教えておく必要があります。
主に「画角(視野角)」と呼ばれ、画角は、カメラレンズから見える範囲を角度で表したもの
で、水平画角、垂直画角、対角画角の3種類があります。
画角(視野角):カメラレンズが捉える範囲を角度で表したもので、バックカメラの場合は後方
の範囲を指します。
▶水平画角:左右方向に見える範囲を角度で表したものです。
▶垂直画角:上下方向に見える範囲を角度で表したものです。(パワーゲート車は、垂直画角を
調整しカメラの向きを変えている車両が多いので、始めて乗る際は注意が必要)
▶対角画角:水平画角と垂直画角を結ぶ対角線の角度を表します。
▶バックカメラのガイド線~バックカメラの映像には、車幅や障害物までの距離を示すガイド線
が表示されることがあります。これらのガイド線は、バック駐車を支援するためのもので、
メーカーや車種によって表示される線や色が異なります。
(ガイドライン表示が出るようになっているのであればガイドライン表示設定をしてください)
▼前進時の高所障害物への視認範囲
バックしようとする際、バック先を確認しますよね。その際、前進過程で高所障害物をどこで
確認するか?その確認は乗車した状態なのか?等によって変わります。
乗車した状態で、3mの高所障害物を運転席かを見た場合、下記検証図【キャビンの大きさと
高所死角との距離】のように3m前後の距離が必要になります。
▼高所障害物検証結果(高さ3mの高所障害物)
4t車の場合
【前方】視認距離3.5m
【右側】 〃 1.9m
【左側】 〃 8.6m
と、左側の視認距離は、約9mと長くなること
に注意が必要で、ドライバーに高所視認検証を行って指導してください。
これは、キャビンが邪魔をして左ドアのフレームが邪魔をしているからです。
~「バック駐車の基本ポイント①~④意識行動
と理由」の①の駐車スペースの横で停止して
駐車スペース等障害物の確認するのは、その
ためです。
▲上図 3m高所障害物
・右ミラーでの視認範囲 3.5m
・左ミラーでの視認範囲 4.35m
※ また、2t車と4t車では、死角(視認)距離が変わる。ことも教えるてください。
2t車は、キャビンが小さくフレームが邪魔をして前方にある高所障害物が見にくくなり、高さ3m
の障害物を見るためには下記検証のとおり約6mが必要になります。
・バックモニター装着車は4トン車で、バックモニターはノーマルで魚眼レンズは付いていない。
・車両後方に設置した高さ3mの高所障害物は、バックモニターには映っていない。
~ 後部から33cm離れると見えないが、55cm離れると見える。
⇒ 近すぎると映らない。(この結果から、事前に見る必要があります。)
~ しかし、左側のサイドミラーには映っている。
バックする際は、高所障害物手前2~3m手前で停止して、バックモニター確認と
サイドミラーの確認が必要です。・・・バック時、高所障害物の確認意識が必要!
・目視では、どのように見えるか確認してください。
~下記写真【高所障害物(高さ3m)の検証結果】参照
右の【ミラーを介してのバック行動とバック駐車4つのポイント 】と【構内事故を防ぐためのバック駐車同乗指導】の 支援チーム動画を見て指導の参考としてください。
【事例事故内容】
・搬入口の前に乗用車がとまっていたため、乗用車と建物の間を後退
したが、左側の建物の先にあった駐輪場の屋根を見落とし接触し
た。
「前進過程」問題点
確認不足 ①で停止した際、左方向の確認が必要です。
駐車車両の狭い右側に駐車しようと思ったのなら「反対側」の
確認もすべきでは?
「バック行動」問題点
搬入口の前に乗用車がとまっていたため、乗用車と建物の間を後退
したが、左側の建物の先にあった駐輪場の屋根を見落とし接触し
た。
▶「建物と乗用車の間を通過」・・・4t車 車幅約2.5m
建物と駐車車両との間隔は、約3mしかないので、その手前2~
3m手前で停止し、バック進行できるかの有無の確認が必要
~そのまま進行❸で駐輪場の屋根と接触
▶「建物の先にある屋根」を見落とし
~❶の段階で、左方後退場所方向を見る必要あります。
見るのは、駐車車両だけでなく自車車両が通過でるかの有無
と、左側の高所障害物含む障害物の確認です。
❸手前で停車または降車して右後方の乗用車と駐輪場との間隔を
確認する行動をとっておれば、左の駐輪場の屋根は確認できた
と考えられます。
上記事例もそうですが、他の事例も【怠り】【見落とした】など、
高さによる高所衝突を意識していなかったことが窺われます。
▼左方前進時
左方前進時の事故件数は、32件です。
そのうち車と高所障害物の衝突は、20件で、左方前進時事故の約63%を占めています。
前進時のうち
左方前進▶左側面前3件、左側面9件、左側面後3件、後部左角3件の18件は、内輪差巻込みによる事故で、そのうち、高所障害物5件の衝突は、多分運転席からでは見えていないと思慮されます。
▶右の写真は、運転席から見た左サイドミラー
の写真
▶右側面後3件、後部右角7件の10件は、尻振り(リアーオバーハング)事故です。
※出発時、車の周りを周回確認(上の障害物を含む)することで、巻込みや尻振り等トラックの車両
特性による事故が見えてくるのではないでしょうか?
その車両特性を理解させるためにも、下記図の検証してみてください。
ただ、下図の検証は、停止してハンドルを左に一杯切った状態での検証で、前方に余地がある
のであれば、切角は浅い状態となり、ハンドルを早く切らない限り巻込みや尻振り事故になる
ことは少ないと思います。
周回確認時間は、長くても3分程度で終わります。
それを惜しんで事故になった場合、報告や顧客等への謝罪等に掛かる時間…数時間~半日程度
かかります。出発時は必ず周回確認を実施してください。
左方バック時
左方バック時の事故件数は、34件です。
そのうち、車への衝突は13件、高所障害物衝突は7件で、
この20件の衝突だけで、左方バック時の約60%を占めており、特に後部左角11件のうち7件が車への衝突になっています。
▶左方バック▶後部左角11件(尻振り)、後部右角12件(尻振り)
▼車への衝突13件の行動別では、
移動中(バック)3件、切り返し(バック)3件、
車庫入・着車時(バック)4件、車庫出(バック)2件、
方向転換(バック)1件
でその内容は、
4行動中、相手車を見ていない等後方不確認が9件(70%)
あり、後方不十分1件を含めると、後方不確認が10件
約80%占めています。
※ハンドルを切りながらのバックは、注意が疎かで、
雑な行動(見ようとしていない!)が見受けられます。
①車庫入れ・着車時時4件
→後方不確認3件、右後方に気をとられ1件
(フロントオバーハングによる衝突)
②車庫バック出時2件
→後方確認不十分1件、相手車不確認1件
③方向転換・切返し4件
→後方不確認3件、・路面にタイヤをとられ1件
④移動中3件
→目測誤り1件、後方不確認2件
となっています。
先にも記載しましたが、
人はトラックをバックする際、バックさせるという一つの行動に集中する必要があり、かつ物に
当てないように、ブレーキやハンドル操作する必要があります。
すなわちバック時は、最低二つ以上の行動に対する判断が必要になります。
この確認対象が多くなるほど難しくなります。
左の行動別の相手車確認状況を見れば、明らかで確認行動を省略しています。
バック事故を含めた交通事故原因の85%は、認知ミスと判断ミスです。
多発している確認行動を省略しないためにも、下記の
「バック駐車の基本ポイント①~④ の意識行動と理由」を徹底した指導と実践させることで、
バック事故は減少します。
また、下記の前進時及び後退時のはみ出し・尻振り・巻込み検証を実施して理解させましょう。
構内事故内容を見てどう感じましたか?
ほとんどの事故が、認知ミス・判断ミス等で発生しています。
実技講習場面でもそうですが、「大半が、行動が先で安全確認等が後」になっています。
危険物を見ても”見たつもり" になって"危険と感じていない。”また失念などの状態が見受けられま
す。
構内事故を減少させるためには、ドライバーに
① 人間というものを知る
・車は、急に止められない! ・安全確認は、停止しての安全確認が一番!
② 自身が運転する車を知る
・車両寸法(車長、車幅、車高)を知ることで物を見る判断(通行できるかの有無)が身につく!
・車両特性(トラックのリアーオバーハングのはみ出し距離、左右後輪タイヤの巻込み距離、
前部左右角のはみ出し距離、死角距離、高所障害物の視認範囲、
バックモニターの視認範囲)
を指導する必要があります。
そのためには、ドライバの【認識度】と【意識度】調査をすると良いでしょう。
知って当たり前と思っているかも知れませんが、結果を見てから判断してください。
下記調査は、
❶ 安全確認とは? ❷ 自車の寸法(車長、車幅、車高) ❸ リアーオバーハングに関する質問
❹ バック駐車行動とその理由
の4項目です。
結果が良ければ問題はありません。
それは、管理者のあなたが指導結果の賜と思います。
出来ていなければ、下記ボタン等の内容を参考に指導してください。